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衛星SARを用いた多地域対応型遺跡探査技術に関する研究
考古学領域において衛星データに最も期待されることは、砂漠や密林に埋もれて発見されていない未知遺跡の検出です。この研究では、地中透過性を有することから、そうした未発見遺跡の検出が期待できるLバンド衛星搭載合成開口レーダSAR(Synthetic Aperture Radar)のデータを用いて、世界各地の考古学調査に有効な効率的かつ汎用性の高い遺跡探査手法を開発することを目的としています。
SARはアンテナから照射したマイクロ波を物体が後方に散乱する度合を観測しています。物体にはそれぞれ固有のシグネチャ(Signature:電磁波の拡散・放射特性)がありますが、SARの画像上の濃度はマイクロ波の後方散乱強度に比例します。例えば、ナイル川西岸の砂漠地域では、遺構や人工施設は強い後方散乱を示すことから画像上では明るく現れ、何も存在しない砂漠領域では暗くなります。これは、非常に乾燥した砂漠地域では、Lバンドのマイクロ波が砂層を透過する性質を持つためです。従って、そうしたマイクロ波シグネチャを遺跡の空白地帯で検出できれば、砂漠に埋もれた未発見の遺跡の発見につながります。当センターでは、SARの画像解析を通して、これまでに3例の遺跡発見に成功しました。

■Site No.29 (図1~2)
日本の衛星ふよう1号(JERS-1)が観測したLバンドSARデータによって、メンフィス・ネクロポリスの砂漠から砂に埋もれた遺跡 Site No.29が発見されました。この発見は、エジプトの砂漠に埋もれた遺跡の探査にSARが有効であることをエジプト学史上初めて実証しました。

■Site No.39 (図3)
スペースシャトル搭載のLバンドSAR(SIR-C:Shuttle Imaging RadarーMission C)データで特定したピラミッドが建ち並ぶ南サッカラの遺跡の空白地点において、エジプト王朝時代のものと推定される砂に埋もれた遺跡Site No.39が発見されました。

現時点における研究の最重要課題は、エジプト学史上初となる地中遺跡発見に成功した手法を、条件が異なる世界各地の遺跡調査に応用可能な遺跡探査技術に改良するための方法論の検討とそれによる技術的体系の確立です。
最新の調査で、ALOS衛星(だいち)に搭載されたPALSAR(フェーズドアレイ方式のLバンドSAR)が、光学センサ画像と組み合わせて多次元画像処理することで、砂漠以外に存在する主に土器片、煉瓦片の地表分布を特徴とする遺跡の検出も可能であることが分かってきました。このような遺跡形態は、エジプトに限らず、世界各地で普遍的に観察される未発見あるいは未調査遺跡の典型的な残存パターンの一つであることから、今後さらなる調査事例を積み重ねながら遺跡探査での衛星SARの有効性を実証していくことで、考古学調査の大幅な効率化が期待できます。

■Site No.52 (記事を参照)
 
図1 左/Site No.29地点のJERS-1/SAR画像
     (©JAXA/METI/RESTEC/TRIC)
  右/同一地域の遺跡分布図

図2 Site No.29地点の地表の様子
 
図3 左/Site No.39地点のSIR-C画像 (©NASA JPL/TRIC)
   右/同一地域の遺跡分布図